レイチェル・カーソンの願ったこと

 

(目次)

 、はじめに

 

1、センス・オブ・ワンダーの意味

 

2、レイチェル・カーソンはどんな人?

~農業と生態系を変えた農薬に初めて警鐘を鳴らした~

 

3、自然への感情 ~子どものころの体験~

 

4、とまらない環境問題  

~ひとつの種が引き起こす初めての大量絶滅~

 

5、環境問題解決への問題

~なぜ世界は、そして私たちは本気で解決に取り組もうとしないのか~

 

6、大切なことは自然そのものを守りたいと思う気持ち

 

f:id:simantonoyamasemi:20181023183142j:plain

 

 

 

 

 

 

0、はじめに

 

この文章を読んでくれているということは、多かれ少なかれ、環境問題、生物多様性保全、人の野生動物の共生などに関心がある方だと思います。

 

どうしたら人の自然の共生が可能になるのか、そもそも人の自然の共生とはどういう状況なのか、それに何の意味があるのか、

そのような課題を考えている方に、ぜひ読んでもらいたいと思っています。

 

 

人間はいつしか、自然界で他の生物を絶滅に追い込むほどの力を持ってしまいました。その意味では、人間はもはや自然の一部とみなしてはいけないのかもしれません。自分たちの生存のことだけを考えて生きるにしては、人はあまりにも大きすぎる。

 

しかし人はほんの少し前までは、自然の中の一生物だったことには間違いありません。気づいたら、地球上の生物の頂点に立っていた。その早すぎる進歩が、ギャップを作り、大きな問題を引き起こしています。ここでは、人と人間の共生に関して、どのような問題があって事態が改善しないのか、どうすれば社会が環境問題に対して、真剣に取り組むようになるのかを考察します。

その鍵を握るのは、"センス・オブ・ワンダー”という言葉だと思います。

 

 

 

 

1、センス・オブ・ワンダーの意味

 

 

センス・オブ・ワンダーとは、一定の対象(自然・SF作品など)に触れることで受ける、ある種の不思議な感動、心理的感覚を表現する概念です。

元々はSF用語として使われていましたが、僕はレイチェル・カーソンが最後の本の題名として意味で使いたいと思います。この言葉は明確な定義などはされていませんが、僕は彼女の"センス・オブ・ワンダー”という言葉には「自然への驚き、畏怖、感動、好き」という意味が込められていると思いました。

 

 

f:id:simantonoyamasemi:20181023181356j:plain

 

 

2、レイチェル・カーソンはどんな人?

~農業と生態系を変えた農薬に初めて警鐘を鳴らした~

 

レイチェル・カーソンが、化学農薬を使って農業が最盛期だった頃、それらによる生態系への影響に警鐘を鳴らした「沈黙の春」を出版したことはよく知られているでしょう。1900年代、人類は数千年続いた害虫との闘いに、劇的な変化をもたらす発明品を生み出します。それが「化学農薬」です。それまで害虫との闘いは一進一退の競争でした。人の手で害虫を潰したり、水田に油を垂らしたりなど、労力のかかる物理的防除、ひいてはお祈りなどを通して被害を防ごうとする、今となっては迷信的だと言われることもよく行われてきました。

 

そんな中、化学農薬の登場はこの何千年もの勝負に、一撃で決着をつけてしまいました。散布するだけで害虫は絶命。害虫だけではありません。畑や田んぼ、果樹園などの農地は人間から見れば、"自分たちの土地”ですが、生き物からみれば、そこは生きていくための"生息地”の一つなのです。そこでは長い歴史の中で人間の農耕文化と共に育まれてきた生態系が成りたっていました。

 

 

しかし化学農薬は、害虫はもちろん、そこで暮らす天敵やその他の生物(農地で暮らす生物のうち、大半は害虫でも天敵でもない生物である)も一瞬で消してしまいました。

一気に害虫問題が解決(したように見えた)ことで農家は大喜び。一気に食糧生産力も上がり、社会の発展に大きく貢献しました。誰もが成功の面だけに注目して喜んでいる一方、その影の面も次第に歩み寄ってきていたのです。

レイチェル・カーソンはそんな自然の変化にいち早く気付いた一人で、それを世間に示したのが、衝撃的な始まりで書き出される「沈黙の春」です。

 

研究者であると共に、作家として自然への豊かな感受性を持っていたレイチェル・カーソン。そんな彼女が最後に出版した本が、「センス・オブ・ワンダー」。

彼女はそれを最後まで書き上げる前に病で亡くなってしまいますが、そこからは思っていたことの片鱗が伝わってきます。

 

 

f:id:simantonoyamasemi:20181023181757j:plain

 

 

 

3、自然への感情 ~子どものころの体験~

 

センス・オブ・ワンダー」それは説明しようとするのは難しい言葉です。それは一人一人の持っている感覚だから、またふと感じる懐かしい匂いのように、一瞬確かに感じ、すぐに過ぎ去ってしまうものだからです。

 

しかし子どもの頃、自然と触れ合う機会が多かった人ならば、このような体験は必ずしたことがあるでしょう。子どもの頃は怖いものが多いです。分からないことが多いからです。また感受性が豊かで想像力豊かなので、そこに自分だけのストーリーを作り出します。子どもにとって、自然は不思議でいっぱいで、時に優しく、時に怖く、心を動かすことで溢れている場所だと思います。

 

思い出してみてください。幼い頃にした、虫取り、川遊び、山歩き…。何も大自然の中で過ごしたことだけが当てはまるのではありません。通学路の風景の小さな変化、校内の樹木、近所の水路の魚、飼育したカブトムシなどのペット…。そんな季節の変化、小さな生き物たちにも何かを感じたことがあるのではないでしょうか。

 

f:id:simantonoyamasemi:20181023182457j:plain

 

そんな記憶を多くの人は年齢と共に忘れてしまいます。他に夢中になれるものができたり、勉強・部活などで忙しくなったり、そんな無邪気でいられる環境ではなくなってしまったり…。

 

感受性や好奇心が子どもの頃より少なってしまうのはある意味仕方がありません。僕たちは子どものときと同じでいられるほど余裕のある環境で暮らしていないし、他に大切なこともたくさん出てくるのです。

 

でも、あの時感じた感動・経験をすべて忘れてしまうのは悲しいことです。幼いころに感じたことは今でも心に残っているはずです。初夏のカエルの鳴き声、田んぼの匂い、育てていたアサガオが初めて咲いた感動、夏休みが終わるころに聞こえ始める秋の虫たちの音色、美しい紅葉、春の暖かさ、、、そんな生き物や四季を通じた記憶はふとした時に蘇ってくる時があるものです。

f:id:simantonoyamasemi:20181023182636j:plain

 

 

 

4、とまらない環境問題  

~ひとつの種が引き起こす初めての大量絶滅~

 

現在、人と自然との共生が、声高く上げられています。確かに以前より自然や環境に対して考慮されることも多くなっています。農地の生態系を一変された化学農薬も規制がかかり、生態系への影響が大きいと認められたものは使えなくなりました。農業の面でIPMという、害虫を全滅させて被害を0にするのではなく、一定の被害は受け入れ、総合的に防除していこうという考えも広がりつつあります。

 

 

しかしそれでも世界の自然環境は大きく変わりつつあります。人類の登場からすさまじい速さで地球上の生物が絶滅していきました。地球46億年の歴史で、現在6回目の大量絶滅期を迎えているといいます。今までの大量絶滅(ビックファイブと呼ばれることも)は主に地殻変動、隕石の落下により起こったとされますが、ホモ・サピエンスという一つの種によってこのような状態に直面していることは初めてです。

 

 

地球規模で考えれば、地球温暖化、森林破壊、オゾン層の破壊など。地域ごとに考えらば、開発による自然破壊、農薬による汚染、川・水路のコンクリート化…。問題となっているのは生物が減少するだけではなく、外来種の増大、イノシシ・シカなどの鳥獣被害の課題もあります。人間の作りだした環境問題は無数にあります。そんな環境問題を解決することは本当にできるのでしょうか。

f:id:simantonoyamasemi:20181023182750j:plain

 

 

5、環境問題解決への問題

~なぜ世界は、そして私たちは本気で解決に取り組もうとしないのか~

 

そんな課題を解決するうえで、重要なことは、レイチェル・カーソンセンス・オブ・ワンダーという考えだと思います。なぜならそれは、"人と自然の共生”を手段ではなくて目的にすることのできるものだからです。

 

現在取り組まれている環境保全生物多様性の維持のための活動は大きな視点が欠けています。それは「何のために守るの?何のために自然のことを考えるの?」という視点です。

 

今はそのために生物多様性の持つ価値をお金で換算し、「こんなにも経済的価値があるから守らなけらばならない」といった方法を取っている。しかしそれでは積極的に守ろうとはなりくいのです。

生物多様性は、人間にはまだ分からないことだらけです。生物多様性が人間にどのくらいの恩恵を与えているかを科学的に、数字で表そうとしても分からないことが多すぎて信用性のあるデータにならず、また引き起こされる社会への悪影響も遠い先、また自分には関係ないと思っているので、力を入れて防ごうとは思わないのです。地球温暖化も同じだと思います。「そもそも温暖化などしていないだろう」「温暖化して悪影響が出てもそれは先のことだろう。もし早くても自分、家族だけは大丈夫だろう」

 

人間は、基本的に楽観的で、また将来のことよりも目先の利益の方に飛びついてもらう傾向があるようです。このような傾向があるのは、実験により実際に証明されていて、進化の歴史の中で身についたものだと言います。詳しく知りたい人は、ケリー・マクゴニガルの「スタンフォードの自分を変える教室」を読んで欲しいです。

f:id:simantonoyamasemi:20181023183020j:plain

 

 

 

そもそも、これ以上の自然破壊を抑えたい、大量絶滅を食い止めたいと思っている多くの人は、そういう利益・不利益を考えた上での動機なわけではないのです。

何も、「生物が絶滅したら、将来有効に使えるかもしれない遺伝子がなくなってしまう!」「山が開発されたら、保水機能がなくなってしまう!」などの理屈でもって、自然を大切に思っているわけではなく、彼らは自然が純粋に好きで、「どうして好きなの?」と聞かれて理由を説明することもできないけれど、地球上のどこかで生物がいなくなっていくのが、感情として寂しいという思いを感じるから、守りたいと思うのです。

 

しかしこの、「何の役に立つのか?」ですべてを推し量ろうとする資本主義、自然との距が離れ、人間が自然の一部であったころを忘れてしまうほどの開発された社会の中で生きる人たちには、自然・生き物への気持ちを声高く訴えても届かない。それで社会を動かすために、誰もが分かる「経済的な効果」「お金」「役に立つ機能」を物差しにしているのです。

でもそれはいつしか、目的として"生き物と共生すること”が願いだったはずなのに、"人間がより良く生きるため”の手段へと変わってしまうのです。

 

生物多様性の大切さを伝えるときに、その大切さを感じている人は、それに価値を感じるから伝えようとするわけです。しかし、価値をもってそれを訴えるのは難しいのです。「価値」には科学は介入できず、人の数だけ価値観は存在します。「たくさんの生物がいることに意味がある」と主張しても、「私はそれに価値を感じない」と言われたらおしまいなのです。

 

つまり、

生物多様性が人間にどのくらいの恩恵を与えているかを科学的に、数字で表そうとしても分からないことが多すぎて信用性のあるデータにならない。

・数字で表す以外の価値において重要性を示そうと思っても、価値観の問題だからみんなが共感するわけではない。

生物多様性減少の影響が日々の生活では実感しにくいことであり、悪影響が出るのは将来のことだと考えているので今すぐ守ろうという気にはならない

どの視点からしても、生物多様性保全の明確な意義が、打ち出せないでいる状態なのが現状なのです。

f:id:simantonoyamasemi:20181023182109j:plain

 

 

 

6、大切なことは自然そのものを守りたいと思う気持ち

 

 

センス・オブ・ワンダーは、自然との触れ合いを通して、"自然への驚き、畏怖、感動、好き”を感じることです。「自然がどんな役に立つ?」「守ることの意義とは?」といった理屈なしに、自然に対して"思いやり”を持つようになる。それは人間のために守るのではなく、自然そのもののために守りたいと思うという感覚です。自分のことしか考えていない「偽善」から抜けて、本当の意味での「他者貢献」をするここと似ています。

 

 

我々は、赤ちゃんに暴力を振るったり、傷つけてはいけないと知っています。赤ちゃんを殴ったりすることは悪いこと、みんなが持っている感覚だと思います。しかしそれはなぜなのでしょう。かわいいから?道徳的にそうだから?

f:id:simantonoyamasemi:20181023183426j:plain

 

赤ちゃんを殴って傷つけたら、将来その子が大きくなった時に仕返しをされる。またもしその子が死んでしまっては、老後、自分たちの世話をしてくれる人がいなくなる、少子化がさらに進めば経済的にも自分たちが困るから。

 

だから傷つけてはいけないと、考える人はいるでしょうか。そういう理由で人は暴力をとどめているのでしょうか。それは違うと思います。人は、本能的に、心の奥底でそれが良くない行為だと分かっているからしないのです。

 

今、自然環境・生物多様性を守ろうとする働きかけの問題はそれと同じです。理屈でもって、経済的な利益を算出して、大切さを実感しておらおうとしています。

 

でも、人が本気で動くのは理屈で納得した時ではないのです。感情が動いて、心の奥底で本当に大切だと思った時なのです。

 

 

 

一人一人がセンス・オブ・ワンダーの感情を取り戻すこと、それが自然との共生で一番大切なことかもしれません。

 

 

 

  Thank you!