3本足のイノシシを追って

あのイノシシは、片方の前足がなかった。

猟師は、そういうイノシシのことを「3本足」と呼ぶ。

体は80〜100キロ級。かなりの巨体。猟師にこのイノシシの映像を見せた時は、少なからずどよめきが起こった。

右前足は、左足がないためであろう、ものすごく筋肉が付いている。その体重を片足で支え続けたのだから当然と言えば当選だ。

警戒心が強く、慎重。くくり罠を仕掛けある場所をことごとく見破る。

出す被害も半端じゃない。やつが田んぼに来ると、まるでトラクターが通ったように土が掘り返された。今年の秋のことだが、ある田んぼに、直径2メートル以上の大穴が突如現れた。まるでミステリサークルのような現象だったが、その原因は後にこのイノシシによる掘り返しだと分かった。

ぬた場(イノシシが泥浴びに使う水溜まり)に使っていたのだ。

その大きさ故に、歩くだけで被害が出る。ブロッコリー畑を通過して行った時には、畝に大穴が開き、植えたばかりの苗を倒していった。その足跡は、クマでも歩いたんじゃないかも思うくらいデカかった。

年齢は正確には分からない。でも恐らく6.7歳以上だろう。少なくとも2017年には、既にこの巨体を持っており、この地域に現れては被害を出していた。

これは、3本足のイノシシとそれを追った僕の半年間の記録。

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僕はとある地域で獣害対策を請け負っている。イノシシやシカ、ハクビシン、カラスなどは農家に大きなダメージを与える。中でもイノシシはその被害の大きさから農家から恐れられている。

そのイノシシとの出会いは、去年8月のことだった。ある田んぼに、イノシシによる被害が出たという。現場に駆けつけて見て驚いた。普通の被害とは訳が違う。田んぼがめちゃくちゃにされているのだ。田んぼの稲は漉し取られ、また泥打ち回られたようでほとんどが倒されていた。全滅に近い状態だった。

どんな個体が、このような被害を出したのか。夜間に赤外線を感知して撮影できるトレイルカメラを設置してみた。そのカメラに映ったのは、足が1本ない、猟師からは「3本足」と呼ばれることもある、大きなイノシシだった。